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2014年1月24日金曜日

とてもたのしいこと

最近あまりここで書く気がしなくてね
長いあいだ頭のなかでこね回していたことが
壁に穴をあけて向こうが見えた気がして
すこし休養だな
小説か詩でも読みたい気分だな






とてもたのしいこと  伊藤比呂美


あの、
つるんとして
手触りがくすぐったく
分泌をはじめて
ひかりさえふくんでいるようにみえる
くすくすと
笑いが
あたしの襞をかよって
子宮にまでおよんでってしまう
(ひろみ、
(尻を出せ、
(おまえの尻、
と言ったことばに自分から反応して
わ。
かべに
ぶつかってしまう
いたいのではない、むしろ
息を
洩らす
声を洩らす
(ひろみ
とあの人が吐きだす
(すきか?
声も搾られる
(すきか?
きつく問い糺すのだ、いつもそうするのだ
(すきか? すきか?

すき

って言うと
おしっこを洩らしたように あ
暖まってしまった




小田急線喜多見駅周辺


小田急線はいつも混んでいて立っていく
正午前後に乗る西武池袋線はたいてい座れる都営地下鉄も座れる。
普通乗るのはそういうのである
小田急線の下る方向には大学があるから人が多い。混んだ電車は乗りこむときの感情が嫌いである人を嫌いになりつつ乗りこむ
成城学園で乗りかえる。向かい側にいつも各停が口を開いて停まっている
人を嫌わずに入る。まばらにしか人がいないいつもいない
慣れないのでいつも急行の車輌の前いちばん前に乗ってしまう
急行の車輌のいちばん前と向かい合わせになる場所には各停の車輌がこない。各停は短い
各停のドアまで歩くうちに急行は動き出し成城学園を過ぎて坂を滑りおりていく坂を滑りおりてすぐ停まる
行き過ぎる車外の植物の群生を見ている
木から草になってまた木になる
草の中を野川が横切っていく
車外に植物の群生があふれる
慣れないので各停の車輌のいちばん前にいつも乗ってしまう。改札へ出る階段はホームの中程にある。上りホームヘ渡ったへんで媚びて手を振る

踏切を渡って徒歩10分のアパート
の部屋に入る
何週間か前に踏切で飛びこみがあった
踏切に木が敷かれてある
木に血が染みていた
線路のくぼみの中に血のかたまりと
臓器のはへんらしいものが残っていた

わたしたちは月経中に性行為した

アパートの部屋に入るとラジオをつける
わたしは相手の顔にかぶさって
顔のすみずみからにきびを搾った
剃りのこした頬のひげを抜いた
背中を向けさせた
背中にほくろ様のものがある
もりあがっているから分かる
搾ると頭の黒い脂がぬるりと出る
みみのうらも脂がたまり
搾るとぬるぬるぬるぬると出た
はでけをかんで引くと抜ける
わたしはつめかみだ
つめがない
つめではけがつかめない
はでやるとかならず抜ける
男の頬がすぐ傍に来るいつもつめたい
ひげが皮膚に触れた
ひげは剃ってある
剃りあとを感じる
前後に性行為する

荒木経惟の写真たちの中に喜多見駅周辺の写真を見てあこれはわたしが性交する場所だと思って恥ずかしいと感じたのだわたしは25歳の女であるからふつうに性行為する。板橋区から世田谷区まで来る来るとちゅうは性行為を思いださない性欲しない車外を行き過ぎる世田谷区の草木を見ているこの季節はようりょくそが層をなしている飽和状態まで水分がたかまる会えばたのしさを感じるだから媚びて手を振るが性行為を思いだすのはアパートの部屋でラジオをつけた時である

性行為に当然さがつけ加わった
踏切を渡って駅に出る
もしかしてぬるぬるのままの性器にぱんつをひっぱりあげて肉片の残る喜多見の踏切を渡ったかもしれないのである
水分はあとからあとから湧きでて
ぱんつに染みた





きっと便器なんだろう


…………
あたしは便器か
いつから
知りたくは、なかったんだが
疑ってしまった口に出して
聞いてしまったあきらかにして
しまわなければならなくなった